誓い(夜昼)


目の前が闇に閉ざされる
けれど、その闇は優しく温かい
どこまでも、どこまでも―…



□誓い□



《―…っ!…るっ!…昼!》

「…ん…ぅ?」

ぼんやりと開けた視界の中に夜の姿が写る。

《昼!》

何をそんなに焦ってるんだろう?

「よる…?」

そんな顔を見ていたくなくて、名前を呼べば夜はほっと安心したような顔になって右手を僕に伸ばしてきた。

「ん…」

夜の右手は僕の頬に触れ、額に置かれる。その手を心地好く感じながら僕はゆっくりと口を開いた。

「夜…なんで、ここにいるの…?」

《何でって、覚えてねぇのか?》

「う…ん?…あれ?…僕、たしか学校にいて…清継くん達と屋上で…」

そこでプッツリと記憶が途切れている。

不思議そうに瞬きを繰り返す昼に、夜は呆れた様にため息を吐き、教えてやる。

《倒れたんだよ。熱があるくせに学校なんか行くからだ》

「熱…?」

《気付かなかったのか?》

「いや、ちょっとだるいなぁとは思ったけど…まさか熱があったなんて…」

その時点で誰かしら気付いても良いものだが。

夜は昼の額に置いていた手を滑らせ、昼の視界を塞ぐ。

《とにかく寝ろ》

「寝ろって、今、夜が起こしたんじゃ…」

《あれは寝るとは言わねぇよ。俺が側にいてやるからぐだぐだ言ってねぇで早く寝ろ》

治るもんも治らねぇだろ。

少し不器用な優しさをみせる夜に、こんな時だというのに嬉しくなる。

こんなのなら悪くないかも。

《なに笑ってんだよ》

「んー、僕が寝ても側にいてね」

《当たり前だろ》

当たり前、か。

瞼に乗せられた手とは逆の、夜の左手を手探りで探す。

それに気付いた夜に僕の手はすぐさま掬われ、きゅっと優しく指が絡められた。

「………」

《………》

何をするでもなく側に居てくれる夜に心が温かくなる。

夜から伝わる温もりに、うとうとと意識が微睡む。

「ん……」

僕が完全に眠ってしまう前に、その声はふわりと優しく僕の心を撫でていった。

《…俺が代わってやれたらいいんだけどな》

なに…言ってんのさ。それはダメだよ。

この熱は僕のもので、代わってしまったら夜の温もりも無かったことになってしまうじゃないか。それに、夜が倒れたら僕が心配するよ。

言葉として口から出たかは分からないけど、僕は想いが伝わればいいと、繋がれた手をきゅっと軽く握った。

《昼…。ゆっくり休め。俺が側にいる》

表の世界では、熱を出して倒れたリクオに側近達が慌てている。

それを知っていながら夜は昼をここに留めた。

《昼は決して弱くはねぇ…が、強くもねぇ》

まだ人間でいうと十二だ。成人もしていない未成熟な心に、側近達の期待は時として重荷になる。

倒れた本人でさえ気付かなかった熱の原因に、夜は眉間に皺を寄せた。

《…お前は俺が守る。お前を傷付ける全てのものから》

そっと右手を退かし、露になった幼い寝顔を見つめながら、夜は誓うように囁いた。



end



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